生知にあり

2022年、新年あけまして、おめでとう。

昨年2021年の8月、町家をリノベした新居に引っ越しをした。
新湊内川沿いにあるこの家で、2022年の正月を迎え、年が明けてすぐに近所のお宮さんに初詣にでかけた。妻と僕は、これが念願の夢だった。

2020年の1月以降、ずっとブログを書いていなかった。
この年のはじめに、「自分のためにもブログを頑張って更新しておこう」と決意した矢先、日本でも新型コロナウィルスの感染拡大がはじまった。
最初は、自分とは無関係の、遠い遠い、海の向こうの話で終わると思っていたこの事態が身近に迫ったとき、どのタイミングでブログに書き綴っていこうかと悩んだ。
悩んでいるうちに、そのタイミングを逸してしまい、結局2年間何も書けずにいた。

未来の自分のために、書き残しておくべきことは山ほどあった。
でも、言葉にするのは正直怖いと思った。日々変わっていく気持ちの変化に確信を持てないまま書いても良いのだ、とは思いつつ、それらの言葉が力を持ってしまうのが怖いと思った。言葉(音)や文章は、現実の結果に影響を及ぼす。これは間違いないはず。

この2年間、生きる意味と価値について、さらに思考の大きな渦に巻き込まれた。
人間が、猿から進化した生き物ではないことを科学的に解説してくれる人々が増えつつあり、ダーウィンの進化論を説明するほうに無理が生じるようになってきた。神秘的な自然界の偶然の連続によって、私たちのような生き物が生まれるわけがない。間違いなく、意思を持つ誰かによって、何かの目的によってデザインされた存在である。仮に、原始的な素粒子が天文学的な自然実験を繰り返して、自然に獲得したカタチ、運動機能、思考回路を得たのだとすると、その自然そのものが巨大なコンピューターであると言えないだろうか。

コロナ禍の「おかげ」で、色々なことの見方がどんどん変わってきた。というか、今まで密かに思ってきた世の中の不思議、感じてきた世間に対する違和感を「やっぱり変だよな」と強く再認識するようになった。例えば、知り合いでもない誰かの不幸や、国民全員が知らなくてもいい心配事がニュースとして報道される意味があるのか。自国の通貨を発行できる国が経済的に貧しいことなど本来ありえない。グローバルに膨れ上がった貨幣経済は国家がコントロールすることができず、人々の健康と命を守ることができなくなっている。

以上のようなことは、大きな思考の渦の、ほんの一部にすぎない。
頭の中でこのような渦がどんどん大きくなっていって、今自分が立っている場所の定義も怪しいものだと思うようになる。過去と未来の時間の価値、日々の営みや喜怒哀楽のエネルギーを台無しにしてしまう可能性だってある。でも、でも、今生きている。誰かのために貢献したいと思っている。自分の存在を肯定したいと思っている。

この辺でやめておこう、、、。
つまり、こんなことを考えすぎて、足元がおぼつかなかったということ。足元がおぼつかない状態で、心と手がうまく機能するはずはない。

しかし、マスク着用は本当にしんどい。これが楽だという人もいるけど、間違いなく酸素が足りていない。
マスクはいつ外して良いのか。いつまでアクリル板越しに食事をするのか。いつになったら人々が気兼ねなく集まり、交流できるのか。

実のところ、足元はまだおぼつかないまま。けど、今年はブログを書く。

人間の創造主が誰であろうと、宇宙があろうとなかろうと、金融システムが終わろうと続こうと、世界が次元上昇してもしなくても、間違いなく自分が選んだ場所にいて、自分が選んだ道を歩んでいる。誰のせいにもできないのだ。

自分は何をするのが好きなんだ?
それをやっているのか? やらない理由はなに?

自分は何がしたくて、今何をしている?
それを本気で、楽しんでやっているのか?

この問いは恐ろしく破壊力がある。
やれない、やらない、できない理由の多くは「お金」と「時間」のはず。技術や知識は努力を続ければ必ず身に付く。
好きなことが見つからない理由も「お金」と「時間」に行きつくのじゃない?

僕は以前、「人生は短いからこそ、一生懸命に頑張れる」的なことを書いた。今もそう思っている。
でも今は、ちょっと違う見え方になってきた。人生は何かを完成させる、どこかのレベルに到達する旅ではないのではないかなと。
仕事として社会から評価されるためでもなく、受賞作品をつくるためではなく、上位になるためでもなく、早く出世するためでもないのかなと。
人間の寿命が300年、1000年あったらどうかな。60歳からピアノを習い始める、70歳からデザインの勉強をはじめる、80歳から漁師になる、これらは全然ありだ。でも寿命がせいぜい長生きしても100歳だとしたら?、、、やれば良いんだよ。漁師になって3年で亡くなったとして、何の後悔がある?

しかし、これが仕事となると、事情が変わってくる。
お客さんの希望するスケジュールに合わせて納品する必要がある。納得いくまで時間をかけて仕事をさせてもらう機会などめったにない。戦国時代の武将の寿命はせいぜい40代だと伝えられているけど、現代の平均寿命はその約2倍である。様々な技術革新と社会実装によって、移動時間も、製作時間も圧倒的に短くなっている。なのに、世間はせっかちで、せわしない。考える過程、つくる過程において「時間」に逆らうことはできない。もっと考えたい、もっと作り込みたいと思っても、時間はそれを許さない。仕事は時間によってコントロールされているし、極端に言うと、時間をコントロールできる人が市場優位に立っている。

世界をひっくり返すような出来事が起こらない限り、好きなことを仕事にするには、短い時間でいいものをつくるしかない。当たり前すぎて、申し訳ないが。
しかし、あえてここで言いたい。短い時間でいいものをつくるのは、ある一定の品質を下回るものに限ると。さらに「本物じゃなくても、安くてそれっぽいもので十分だ」というクライアントの場合。

画期的なアイデアを出すには、パソコンの前で悩んだり、出かけて現場を眺めたり、人の意見を聞いたり、本を調べたり、紙にスケッチしてみたり、ときには視察に行ってみたり、時間を置いて冷静になったりと、それなりの時間が必要となる。陶芸家が新しい作品をつくるときも、スケッチしたり、ミニチュアをつくったり、素材との出会いを求めて出かけたり、試しに焼いて人から意見を聞いたり、きっと同じような工程があると思う。

僕の仕事で言うと、間取りや導線を、その場を利用する人がどんな運営や動作をするか考えながら辻褄合わせをしていきつつ、ワクワクする空間デザインを考えるため、ある程度の精度をもったコンピュータグラフィックで作り込んだ仮想空間で検証し、意見をもらい、微修正を繰り返す。時間を置くことで、自分でも客観的な目を取り戻し、不具合を見つけるができるし、それについてはまた誰かに意見を聞き、さらに修正する。

周りを見てみると、チープな工業製品のような住宅やビル、個性がなく画一的なデザインの自動車や家電、安さ重視のインテリア家具など、既製品パーツの組み合わせで出来た商品で溢れている。

だから、価格競争とか、企業努力とか、スピード勝負とか、万人受けとか、もっと言うと「一般的にはこうだ」という意見とか、そういう言葉が飛び交う世界から、さらに遠ざかっていこうと思った。その代わり、結果には妥協しない。仕事の依頼者の想像を超えるレベルのことをやっていこうと、あらためて決意した。

僕は、クリエイティブの力を信じている。
クリエイティブとは、考えつづける仕事なのだ。考えることを諦めないこと、止めないこと。
そうすることで、人任せにしていた事が、いつかは専門分野となる。このことは多くのことで経験済みだけど、あらためて決意した。
そして、自分の意識のなかを何周もして戻ってきた言葉が「主体性」。
主体性は、クリエイティブの原動力だ。
お客さんのレストランの厨房に、自分がシェフとして立ったとき、果たして使いやすい空間になっているか? 万が一、自分がこの店を引き続くことになっても、しっかりと経営できる店なっているか? そこまでの思いを持てるかが主体性であり、クリエイティブな仕事なんだと思う。
ホテルをプロデュースするとき、素敵なデザインをするのは当然だが、ゴミ箱やティッシュボックスを置く場所まで考えるのが、主体性のある仕事であろう。
そこまで考える仕事に自信を持ち、それに見合った作業時間と見積額を責任をもって提案することにしよう。

世界よ、自分よ、ありがとう。

<妻と一緒に、気比住吉社の鳥居前にて>

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